第4回
中学生・高校生のための
コントラバス・ソロコンテスト
開催記念・特別刊行


作成:湯本悠介(理学療法士)"
ここでは、コンテストの時に配布したものに書ききれなかった内容が載せてあります。
(一部、内容が重なっているものもあります。ゆるしてね)
本編に入る前に…
初めまして、このテキストを作成した湯本悠介です。私は理学療法士という医療資格を持っています。普段は、生活の中でケガをした患者さんや、病気の治療を頑張る患者さんへリハビリ テーションを行っています。
今回は、これを読んだ皆さんがコントラバスを弾き続けるときに役に立つであろうことを、4つにまとめました。
||: リハビリってどんなことをするの? :||
||: 食事と演奏って関係あるの? :||
||: 痛いってどういうこと? :||
||: 痛みが続くときは医療機関に行こう :||


今回は日本国内の医療機関で一般的に使用している知識・医療技術のなかから、コントラバス演奏に活用できる情報を選び、本テキスト・ホームページ版を作成しました。医学的な安全に最大限の配慮をした内容を記載しています。 すでにケガ・病気で医療機関にて治療を受けている方は、主治医や担当医療者の指導を必ず守ったうえで読み進めてください。
||: リハビリってどんなことをするの? :||
リハビリ(リハビリテーション)とは?
生活に必要な動作能力を獲得するために動きの練習を行うことです。理学療法士のほか作業療法士や言語聴覚士など、得意分野の異なるリハビリの専門家がいます。

||: リハビリってどんなことをするの? :||
理学療法士とは?
ケガや病気などで身体に障害のある人や、今後、障害の発生が予測される人に対し、障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法を行う動作の専門家です。
理学療法士は厚生労働省が定めた国家資格の1つで、ほぼ全ての診療科目の患者さんが治療対象です。

理学療法士って どこにいるの?
病院やクリニック、介護施設のほか、プロのスポーツチーム・ナショナルチームのサポートメンバーとして在籍しています。
最近は、国内プロバレエ団や労働災害の起きやすい業種の企業で働く従業員の労働環境の指導のほか、東京藝術大学や大阪芸術大学にて長く演奏活動を継続するために必要な生活指導に関する授業を行う理学療法士もいます。
言葉の確認
このテキストに出てくる医学・解剖学的な言葉の意味を整理します。日本で働く医療従事者がこの理解で働いています。将来の進路として医療職を考えている人は、入口としてぜひ覚えてね♪


骨
①カルシウムを蓄える ②体を支える ③血液を作る
体重の15~18%を占めます。カルシウム(※)が骨の3/4を占め、残り1/4はコラーゲン。カルシウムを取り出し、コラーゲンのみにしても“骨っぽい”形をしています。人間には約200個の骨があると考えられています。

ブタの右腕の骨から
カルシウムを取り除いたもの
※お肉の部分は美味しく食べました

(※)リン酸と結合しリン酸カルシウムとして貯蔵しています

筋肉 (ここでは“骨格筋”を指します)
①体を動かす ②熱を生む ③体液循環を補助する
神経細胞から発生したカルシウム(イオン)と反応して、収縮(活動)します。
a)動く b)支える c)ブレーキ
筋肉はこの3つの収縮パターンができます。右図のダンベル運動で考えると…
a)動く:右腕を上げる筋肉
b)支える:胴体の筋肉(立った姿勢を保つため)
c)ブレーキ:左腕を下げる筋肉(勢いよく落ちてケガを防ぐため)
…という感じの連携がされています。

コントラバスを弾くということ
||: 理学療法士が演奏をみるとき :||
理学療法士の視点でコントラバスの演奏を観察すると、動作の分析に難しさを感じます。理由は、楽器のシェイプ・弓の形・弦の数や種類等、身体以外の条件の多さに困惑します。そこへさらに、演奏する音楽の領域や師事する先生の経験則が検討要素に加わると…もう大変(汗)
これらを踏まえると、掲載内容はコントラバスを演奏する“皆さん”にスポットを当てた方が、わかりやすいかと考え、“オススメのストレッチ”から離れました。
つまり皆さんの演奏そのものを考えるのであれば、「個別相談の方が、理学療法士は皆さんの力になれる」ということです。
ここで言う“個別相談”とは
いま、痛みやしびれで困っていること
に対して…
医学的な知識を用いて解決方法を提案すること
理学療法士がいくつかの解決方法を提案し、演奏している人・指導している人が相談して答えを選ぶということです。いわゆる“良い姿勢”にこだわらず、演奏している人が“やりやすい方法”を一緒に考えることができるのが、理学療法士の強みとも言えます。
手首と肘のこと
||:テノデーシスアクションって知ってる?:||
手首と指の動きについて、テノデーシスアクションという言葉があります。
①手首を曲げた時に指を伸ばす筋肉・腱が伸び
指を曲げる筋肉・腱が緩む作用
②手首を反った時に指を伸ばす筋肉・腱が緩み
指を曲げる筋肉・腱が伸びる作用
テノデーシスアクションとはこの2つの作用の総称です。
テノデーシスアクションという作用を知った上で、改めて教本を踏まえて読み直すと、弓を返す時の右手の使い方や低いポジションでの左手の使い方を、より深く考えることができます。


手首と肘のこと
||:上腕骨外側上顆炎(テニス肘) :||
短橈側手根伸筋(上腕骨の外側上顆から中指の背側に繋がる)と
いう筋肉と、その周囲にある組織の炎症の総称です。
原因
①奏者の問題:練習前後のストレッチ・クールダウン不足, 右手の筋力が不足, 演奏中の楽器と身体の位置関係(特に足部)の不良
②弓の問題:毛の劣化, 温度・湿度変化による張力の変動, 毛箱の大きさ・弓全体の重さ・弓の重心位置が奏者に合っていない
③松やにの問題:乾燥劣化、塗る量の不足など
治療内容
①重症度に応じたストレッチの指導
②サポーターやテーピングの処方、生活補助具の使用を提案しつつ、安全な負荷量を考慮しながら練習の継続
治療にかかる時間 (めやす)
・練習中だけ痛む場合 →約1ヶ月
・飲み物の蓋の開け閉め等で痛む場合 →1ヶ月以上
・食事や字を書くときに痛む場合 →2ヶ月以上
放置したり誤った治療を継続すると...
炎症を起こした場所や周囲の動きが低下し
ます。無理に動かすと周囲の組織や神経まで
傷つけ、痛みの範囲が拡大します。
たんとうそくしゅこんしんきん

テニスでは、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)はラケットに張るガットの張力と発症の関係が指摘されています。それを参考にすると、ソロ弦や張力の強いオーケストラ弦で発症リスクが高まることも予想できます。
上腕骨外側上顆炎と診断された場合は、適切な治療・リハビリのほか、師事する先生と弓・楽器の調整や弦の交換も検討してみましょう。
この表は、クロサワバイオリン コントラバス本店さまが紹介していた弦の張力を表に書き換えたものです。参考にしてみてくださいね。

腰のこと
||: 中高生の 腰痛 も要注意! :||
軽く見られがちな10代の腰痛には一生治らないケガが潜んでいる場合もあり世界中の整形外科医が注意を呼びかけています。
コントラバスを弾く人も、様々な場面で身体をひねること・反ることがありますよね。それらの動作が、腰に重い負担をかけることもあります。今回はこの3つのケガを詳しく紹介します。
そくわんしょう
ひとくいてきようつう
①腰椎分離症 ②側弯症 ③非特異的腰痛

||: 腰椎分離症 :||
背骨の骨折のひとつです。成長期の腰痛患者の30%~50%が腰椎分離症と診断できる状態という報告もあります。しかし発症初期では、他の部位の骨折のような痛みがありません。
原因:体を反る・ひねる姿勢を繰り返すこと
・楽器を前に抱えての階段昇降や運搬車両への積み下ろし
・楽器を客席に向け、体は指揮者に向け続ける等の危険な演奏姿勢
治療内容
オーダーメイドのコルセットを着用し患部の
負担を軽減したうえで練習を継続します。
治療にかかる時間 (めやす)
・発症早期に治療開始した場合:3~4ヶ月
・腰椎すべり症が出現していた場合:完治困難
放置したり誤った治療を継続すると...
腰椎すべり症という、腰椎の位置関係が崩れる状態に移行します。重症な状態になると、排尿·排便機能が低下する場合もあります。

||: 側弯症(AIS) :||
脊柱(背骨の並び)が左右にズレるような症状のことです。発生頻度は10代女性の1~2%と報告されています。
原因:不明
治療内容
・変形初期で開始した場合:オーダーメイドのコルセットを着用しながら、筋力バランスを整える内容を中心とした練習の継続
・変形が重症な場合:手術
治療にかかる時間
個人差があります
(身長の成長が止まる頃)
放置したり誤った治療を継続すると...
①呼吸機能の低下
②痛みや痺れの悪化
③心臓の機能を低下
…などを指摘する学説もあります。
成長期を過ぎても、腰痛が続くために整形外科で診察を受けたときに側弯が判明する場合もあります。

||: 非特異的腰痛 :||
原因不明の腰痛のことです。整形外科に受診する腰痛患者の80%以上が非特異的腰痛という学説もあります。
原因:不明
心理的ストレスの他、過去のケガの二次的な症状として腰痛が発生する場合もあります(湯本も足首のケガが原因で発症したことがあります)。
治療内容
練習を継続しながらの腰へのストレッチのほか、過去のケガなど不利のある身体部位への運動指導をします。練習メニューや、練習環境の検討を一緒に行います。
治療にかかる時間 (めやす)
2~3ヶ月。痛みが改善しても再発率は60~90%との報告も...
放置したり誤った治療を継続すると...
腰痛が慢性化します。骨や筋肉の症状が改善しても脳の構造が変化し、『演奏動作=腰痛』という思考・神経回路が構築されます (『パブロフの犬』の原理)。
慢性化した腰痛はリハビリに加え心理療法も必要となり、治療期間が長くなってしまいます。
膝のこと
||: 膝の 伸びた姿勢 は強力な安定性を誇る! :||
膝を完全に伸ばしきると…
①内側側副靭帯
②外側側副靭帯
③前十字靭帯
④大腿四頭筋(内側広筋・外側広筋・中間広筋・大腿直筋の総称)
⑤腸脛靭帯・大腿筋膜張筋
これらの靭帯・筋肉が一斉に緊張し膝を強力に支えます。


膝が伸びた状態にも、メリット・デメリットがあります。

メリット・デメリットは、腰・股関節・膝・足首が互いに影響しあっているためで、この関係性を下肢荷重連鎖といいます。これを踏まえるとエンドピンの高さ設定にも色々な考え方ができますよね。
食事を考える
||: 全身の骨・内臓の発達は20才ころまで行われる :||
①全身の骨・内臓の発達が終了するのは18~20歳ころのため
②練習時のケガ予防のため

内臓は、上記の表の頃に発達は終了します。骨は、橈骨・手根骨・骨盤の発達が終了するのは男女とも18歳頃と考えられています。



成長期に適切な栄養バランスで構成された食事を十分に摂取することで、これらの内臓や骨は正常な機能を獲得できます。
||: しっかり食べてケガ予防 :||
ケガは多くの場合、疲れているときに起こります。疲れていると人の体ではこのようなことが起きます。
①集中力の低下
②注意力の低下
③筋力の低下
④筋活動の連携ミスの増加
これらの原因は、睡眠不足や忙しい日程が続いた場合でも起きますが、食事の偏りや、“食べない”ダイエット(〇〇断ちetc...)を行った場合も生じます。
日本医師会が公表している、生活に必要なエネルギー量を、コントラバス演奏で消費されると考えられるエネルギー量を差し引いて考えると、15-17歳の場合、男性は約3139kcal・女性は約2554kcalのエネルギーが、1日に必要とされています。これは弾き慣れた曲を軽く弾く場合の数値で、体力を要する曲を練習する場合は、さらに多くのエネルギーが必要です。
また基礎代謝量(生きるのに必要最低限のエネルギー)は15-17歳の場合、男性は約1610kcal・女性は約1310kcl必要です。
食事で摂取したエネルギー量が基礎代謝量を下回る状態が続くと、身体は筋肉を働かせるエネルギー源として筋肉自身を分解し始めます。つまり、動けば動くほど筋力が弱まります。
バランスよく様々なものを食べましょう。もともと食が細い人は、栄養補助食品やサプリメントなどで補うのも方法の1つですよ♪
今回は成長期に必要な栄養バランスを踏まえ、手軽に作れる料理を他の理学療法士・看護学生・薬学生さんと考えました。こちらのURLから、ぜひ確認してくださいね
||: 痛みが続くときは医療機関に行こう :||
①特定の動作が痛い、②何もしていなくても痛いの、どちらかの状況になったら、整形外科のクリニックへ受診しましょう(※)。
体の不調の相談先として、接骨院・整骨院がよく上がりますがこれらの施設は医療機関ではありません。接骨院・整骨院は医療機関にて原因が明らかにされているケガに対して施術をする場所です(日本臨床整形外科学会)。
お世話になっている接骨院・整骨院がある場合は、まずは病院・クリニックなど医療機関にて医師の診察・診断を受けてから行きましょう。
相談先として医療機関が選ばれにくい理由のなかに、「病院へ行くとで固定させられる」「練習を休まされる」というものがあります。これは、医療者から患者さんへ、症状について説明が不十分であるにもかかわらず、治療を強行したことが原因です。この点は医療者が反省すべき点だと私は考えています。
「どこに相談したら良いかわからない」・「病院の人に、どう伝えたら良いかわからない」という方は私の連絡先へお気軽にご相談くださいね♪

(相談無料です。有料対応の場合は事前に提示します)
~作成者~
湯本悠介

東海大学および社会医学技術学院卒業。神奈川県内の急性期病院での勤務を経て現在は、やつか整形外科内科に勤務。また、音楽家専門身体ケアサロンArtist Plus登録セラピスト。
理学療法士として、ケガ,重症の熱中症,新型コロナウイルス感染症,癌,心臓病,脳性麻痺のほか、手術後の動作能力低下に対しリハビリを実施。音楽家へは「標準治療で早期舞台復帰」を基本に運動機能だけでなく、栄養バランス·ホルモン由来の身体変化·睡眠など生理学的視点も用い治療介入している。
コントラバスを、NHK交響楽団,読売日本交響楽団の所属団員より個人指導を受け研鑽を積む。現在は社会人団体や民間企業公式オーケストラなどに出演するほか、ソロ·室内楽作品や舞台作品伴奏に取り組む。
とにかく大食い(白米4合+ステーキ300gは日常)



♪Special Thanks♪
・やつか整形外科内科 医師・理学療法士の皆さま
・松本拓也さま(ARTIST PLUS 代表)
・中村純子さま(東京藝術大学非常勤講師・高知リハビリテーション専門職大学客員教授)
・大西敏幸さま(日本フィルハーモニー交響楽団首席トランペット奏者)
・陳子沛さま(東京藝術大学大学院音楽研究科 コントラバス専攻 修士)
・真嶌美月さま(帝京平成大学 健康メディカル学部 理学療法学科 学生)
・久世友さま(慶應義塾大学 薬学部 学生)
・梅田香帆さま、佐久間貴也さま、野村蒔仁さま(日本赤十字看護大学 看護学部 学生)
・清水唯衣さま(東京農工大学大学院 工学府応用化学専攻 博士前期課程)
